サロン・ド・パース第1回ライブ(伊藤賢治・岩垂徳行・小笠原幸子・安齋拓磨)

2019/11/16 SDPライブ@三軒茶屋Whisper LiveReport

出演:
Salon de Pers 岩垂徳行(tbn)、安齋拓磨(ds)、小笠原幸子(p)
特別ゲスト 伊藤賢治(p)

1st :18:30~19:30
2nd:20:15~21:15
写真はファンの方からご提供いただいたものと、メンバーが撮影したものです。時系列は正しくないのですが、ご了承ください一部リハの写真もあります。

定刻になり、岩垂徳行(tbn)、安齋拓磨(ds)、小笠原幸子(p)、がステージにIN。バンドおよびメンバー紹介を軽く行いました。バンド名を名乗っただけで客席から、くすくすと笑いが起きるんですが・・・何か?初舞台でギックリ腰をやらかして「サロンパス」を貼って演奏した伝説の(?)バンド、Salon de Pers(サロン・ド・パース)の登場です!!

当日の1stステージのセットリストは以下の通り

〜イントロ Over the Rainbow (Harold Arlen)〜
01.Speak Low (Kurt Weill
02.一つのメルヘン(小笠原幸子)
03.East of the Sun (Brooks Bowman
〜伊藤賢治氏をゲストに迎えてのトークコーナー〜
 <イトケンコーナーは、伊藤賢治&安齋拓磨で演奏>
04.Improvisation(伊藤賢治&安齋拓磨)
05.Departure[パズル&ドラゴンズより](伊藤賢治)
06.七英雄バトル[ロマンシングサガ2より](伊藤賢治)
07.The Sidewinder (Lee Morgan
08.SAPONIN(岩垂徳行)
〜Happy BirthDay(11/16誕生日のお客様向け)〜

客席に登場した際、Jazzピアノをポロポロ弾いておけという師匠からの指示もあり、即興か有名な曲か迷った小笠原でしたが、今回は誰もが知っているような曲を少し演奏してから、 Speak Lowのイントロへと繋げることに。Jazzのスタンダードでもよく演奏されるOver the Rainbowを選択しました。

Speak Low:
ラテンのリズムで拓磨からスタート、岩垂さんのカウントと共に、PianoとTromboneがIN。実はラテンピアノも習っている小笠原です。岩垂ソロ、小笠原ソロを披露。演奏の途中では、ラテンのリズムから4ビートに変化したりと少し変化をつけてみました。エンディングでは、トロンボーンで盛り上げてもらい、ドラムの合図と共に演奏を終了!

参考:Sonny Clark「Sonny’s Crib」より「Speak Low」
Donald Byrd (tp), Curtis Fuller (tb), John Coltrane (ts),Sonny Clark (p), Paul Chambers (b), Art Taylor (ds)

一つのメルヘン:
これは、小笠原が中原中也の作品に音楽をつけるライフワークの一環で、ライブ&1stCDのために書き下ろした新曲。Jazzというコンセプトの縛りがあり、Jazzを専門的に学んでいる唯一のメンバーの小笠原がジャズらしくなかったらカッコ悪いよねと、コード進行をかなり難しくしています。岩垂師匠からは大変不評でしたが(苦笑)、元はBill EvansのVERY EARLYへの憧れから作成した曲です。甘い音色で聴かせるTromboneが素敵でした。

参考:Bill Evans「Moon Beams」より「VERY EARLY」
Bill Evans (p), Chuck Israels (b), Paul Motian (ds)

East of the Sun:
誰の曲ですか?という岩垂さんの振りから始まりましたが、正確には「Brooks Bowman」という作曲家の曲です。スタンダードの中でも、明るい曲調とさわやかなメロディーが印象的な曲です。ピアノイントロから始まり、テーマを丁寧で繊細に演奏する岩垂さんのTrombone。拓磨の細かいブラシでのSwingのリズムがくすぐったいくらい甘く甘美な世界に誘ってくれました。私にとっては、東京のジャズクラブでよく耳にする名曲で、これをジャズクラブで自分で演奏するという小笠原の夢を果たした一夜でした。

参考:Kenny Barron「people time」より「East Of The Sun (And West Of The Moon)」
Kenny Barron(p),Stan Getz(ts)

お待ちかねのゲストさん〜伊藤賢治さん〜の登場です。
皆さんの「イトケンさ〜ん!」のコールでご登場。1st最初からずっと化粧室の前で待機されていた伊藤さん。まずは、岩垂さんと伊藤さんのトークをお楽しみ頂きました。
Jazzやったことある?(岩垂)興味はありましたよ!(伊藤)
僕らはフォークソングの世代で…と、リハの時に二人で「神田川」を歌ったことを暴露。二人+菊田さん+佐野電磁さんでフォークジャンボリー計画も持ち上がっているようです。普段は作曲家としてJazzの曲を作り、レコーディングでプレイヤーに”ちょっと違うかも”なんて言ってしまうことあるけれど、演奏したらとても難しいことがわかり、「今までどうもスイマセンでした!」と伊藤さん。ところで、岩垂パラダイスというCDのタイトルは?「ウハウハな感じにしたかったの、南国な感じのアルバム!」という岩垂さんの新作オリジナルCDの説明も。ね?拓磨くん!と無理やり話を振られた拓磨は、ひとしきりの自己紹介の後、「僕アメリカからこのライブのために移住しまして!」と思わず答えてしまったり。家賃は岩垂さんに3割請求ねと伊藤さんからのアドバイスもありました。トークの最後には、ピアニカとメロディオンの違いについても伊藤さんから説明があり、ついに伊藤さん+拓磨の一晩限りのセッションの始まりです。

Improvisation:
伊藤さん+拓磨の即興で作り上げられる曲。始まりは「怪奇大作戦じゃないよ!」と注釈を入れるほど、不思議な和音。やがて、拓磨のドラムがオンタイムになり、まるでヨーロッパのJazzのようなイーブンなリズムでのお洒落な旋律と、哀愁漂う雰囲気。絶妙に絡みあう拓磨のドラム。Em→Am→D→Gという循環的なコード進行を、Em→Am→A#dim→Bとすることで、イトケン的な音になることを自ら解説。25年変わらないイトケン節です。

Departure:
パズル&ドラゴンズの中でもとりわけ代表曲的なナンバー。TVのCMで流れたり、pentatonixというコーラスグループにカバーされたりという、正統派で誰もが好きになるメロディーです。グランドピアノから聞こえる伊藤さんの音は、明るく前向きにひたすら突き進むことができるかような未来への希望を感じさせるものでした。この曲も作曲者本人の演奏でさぞ誇らしかったでしょう。お洒落に支える拓磨のドラムも小気味好く、澄み切った青空の日に旅立つ小旅行のような気分にさせてくれました。

七英雄バトル:
一転して、伊藤賢治さんらしさが滲み出るマイナーな曲調の名曲。来月からサガ30周年も迎えるそうで、イベント目白押しの伊藤さん。2/16東京芸術劇場での公演も完売の様子ですが、他にもライブのご出演など予定があるそうです。静かに始まるイントロ、メロは哀愁も感じさせるような曲調でありながら、力強いメロディー。ゲームでプレイしてきた方々にとっては、思い出深い曲だったことと思います。ドラマチックに展開していく曲は、秋の深々と冷える空気のようでした。

The Sidewinder:
天才トランペッター「Lee Morgan」の名曲であり、Jazzの曲では異例のヒットソング、そしてジャズロックに分類されるものです。淡々としたリズムの中に、激しいソロ合戦があり、身を乗り出してソロを演奏する伊藤さん、観客を魅了する素晴らしいパフォーマンスでした。小笠原はヒタスラ、左手のベースラインがコケないようにと左手に集中、実際、ベースラインを弾きながらのソロは難しく。でも熱い気持ちがステージから客席に届いたように思います。一番挑戦的な伊藤さんのソロがとても気持ちよかったですね。

参考:Lee Morgan「The Sidewinder」より「The Sidewinder」
Lee Morgan(tp), Joe Henderson(ts),Billy Higgins (ds),Barry Harris(p),Bob Cranshaw(b)

SAPOIN:
Salon de Persの看板作曲家、岩垂徳行師匠のこの公演と1stCDの為に書き下ろした新作「SAPONIN」です。Salon de Persという薬っぽいバンド名だけに、SAPONINって糖尿病の薬を選んだというセンスは、脱帽としか言えません。曲調は4Beatのシンプルな曲です。本人の解説によりますと、「サポニン、9thばかりを使ってるわけじゃナインス」と。

当日の2ndステージのセットリストは以下の通り。

01.St.Thomas (Sonny Rollins
02.For Your Tenderness(安齋拓磨)
03.Upper Manhattan Medical Group(U.M.M.G.) (Billy Strayhorn
〜伊藤賢治氏をゲストに迎えてのトークコーナー〜
 <イトケンコーナーは、伊藤賢治&安齋拓磨で演奏>
04.さかさま世界[パズドラZより](伊藤賢治)
05.Departure[パズル&ドラゴンズより](伊藤賢治)
06.七英雄バトル[ロマンシングサガ2より](伊藤賢治)
07.秒針(小笠原幸子)
08.The Sidewinder (Lee Morgan
09.GrandeGrande(岩垂徳行)
〜アンコール〜
10.SAPONIN(岩垂徳行)

St.Thomas:
Salon de Persだけの演奏でお届けするJazzスタンダード。Sonny Rollinsの名曲、St.Thomasです。リズムは不思議と南国風、それもそのはず、この曲はカリプソといってカリブ地方音楽の古典的作品を子守唄に聴かせたRollinsのお母さんの影響によりできたジャズでは初めてカリプソを取り入れた曲なのです。拓磨のリズミカルなドラムに乗って、ピアノがIN、盛り上がったところでTromboneのテーマが始まります。どこかで聞いたことあるメロディー、アドリブには日本の童謡のメロをちょっと挟みつつ、締めはみんなでユニゾンでビシッと決めました。

参考:Sonny Rolling「SAXOPHONE COLOSSUS」より「St.Thomas」
Sonny Rollins (ts), Tommy Flanagan (p), Doug Watkins (b), Max Roach (ds)

For Your Tenderness:
拓磨が本公演&1stCDのために書き下ろした曲。最初に譜面をもらった時に、誰に向けて書いたの?と聞いたらその背景を話してくれました。今は亡き友人への想いを込め、悲しいのではなく、心が温まるような曲、そして、優しいメロディー。ジャズらしさより、曲の素材のシンプルな良さを活かさなければと岩垂さんのトロンボーンも優しく優しく、小笠原のピアノも余計なことをしないようにと、丁寧に演奏した1曲でした。

Upper Manhattan Medical Group(U.M.M.G.) :
ジャズクラブで時々演奏されることもあり、小笠原が是非レパートリーに入れたいと思っていた曲です。Jazzを学ぶ小笠原にとっても難曲なのですが、しれっと岩垂氏に楽譜を渡して演奏してもらいました。(師匠ゴメン)あまりせわしなくならないように、少しテンポを落として演奏しました。岩垂ソロと小笠原ソロを披露して、消えるようにエンディングへ。

参考:Tommy Flanagan「Tokyo Recital」より「U.M.M.G.」
Tommy Flanagan(p),Keter Betts(b) ,Bobby Durham(ds)

2ndセットでも、伊藤賢治さんをお招きしてまずはトークコーナーから。話の詳細は録音が残っておらず、書き起こせないのですが・・・。1stと違って、どちらかというと伊藤さんからリードしてもらってトークを進める形式で。数々のゲーム音楽を作曲してきたお二人ですが、沢山の良き時代をお互い過ごし、気がつけば30年近くの年月が経ちました。偶然ですが二人とも来年30周年の節目を迎えるそうで、このホームページでは詳細はあかせないものの、岩垂さんの来年の動向にご注目ください。これからもっともっと面白い事、価値ある事、楽しい事を推し進めて行きたいという二人の希望が語られたトークでした。

さかさま世界:
伊藤さんの代表曲の一つである、中川翔子さんの17thシングルにもなった「さかさま世界」、パズドラZ(ニンテンドー3DS)の曲のインスト版とでも言うべきでしょうか。実は二人はほぼノーリハ。なんと舞台上で打ち合わせ!です。拓磨の世界レベルの技術、驚きますね!明るい曲調で、ノリが良い曲。思わず手拍子したくなるようなウキウキな気分を味わいました!王道のPOPSらしさが有る中に、ちょっとひねりを聴かせたコード進行もあって、爽やかで可愛らしい歌モノ曲でした!

そして、1stと同様、伊藤さん&拓磨の「Departure」「七英雄バトル」の演奏が披露されました!

秒針:
ずっと演奏が続いていた拓磨を気遣って、岩垂さんから急遽「拓磨を休ませよう!」と指示が飛び小笠原が何か1曲弾くことに。さて、スタンダードであるAll The Things You Areと自作曲とどちらにしようかと悩んだものの、その会場に、ゲーム音楽作曲家が3人(実は客席になるけみちこ先生が・・・)いらしたので、自分の曲を勇気を出して披露してみたのでした。切ない気持ちを表したピアノソロアレンジ、心に届くようにと想いを込めて演奏しました。「良かった、わかりやすい曲で・・・」と岩垂さんの評。(1stの「一つのメルヘン」との対比でそう言ってます)岩垂徳行弟子生活21年がちょっと報われた瞬間でした。

続いて、1stと同様に全員のアンサンブルで「The Sidewinder」が披露されました。

GrandeGrande:
前回やった時に、とても好評で・・・岩垂さんがと切り出すと「待ってました!」と客席から歓声が。SDPの出航に相応しい名曲、GrandeGrandeは、実はとても演奏が難しい曲なのです。16ビートなのですが、複雑にパズルのように絡み合うドラムとピアノ(ベース)の音が元となり、コードは殆どAmで進行し、コンテンポラリーな要素が多く、ベースレスのバンド泣かせの曲でもあります。伊藤賢治さんのメロディオンも参加してメインのテーマもハモっていただきました!Jazz初挑戦の伊藤さんは、ドラムソロ(通常、上物楽器が順番にソロを披露する)にドキドキされていたと思います。自分の演奏の順番がいつ回ってくるのかと・・・!拓磨のドラムもヒートアップして盛り上がりは最高潮でした!

アンコール(SAPONIN):
少数の精鋭のアンコールに応えて(?!)、SAPONINを演奏しました。一部では最後にやった曲、糖尿病に効くサポニンです。「小笠原幸子が腰痛で、イトケンも肩が上がらず、前回俺が腰を痛めて、拓磨くんが首を痛めてマジでサロンパス貼ってたっていう、これでみんな正式メンバーになれた・・・」「いや、本当に笑い話じゃないですからね!」という最後まで絶妙なトークでみんなを楽しませてくれた岩垂&伊藤の二人の巨匠でした。伊藤さんの手拍子の合図でみんな会場一体となって楽しみました。

みなさん、お疲れ様でした!!